21世紀の肢体不自由児療育の諸問題-肢体不自由児施設の立場より-

障害児医療を政策医療と位置づけ、一般医療とは連動しない体系化をはかることが求められています。

  1. 児者一貫したライフステージに沿った対応
  2. 障害種別を乗り越えた障害の統合。これにはマンパワーの面から中・軽等度はあらゆる施設で対応し重度な症例はそれぞれの障害の専門施設で対応する方向
  3. 施設群別ではなく個々の障害程度区分に応じた生活障害の観点よりの対応

をの三つを柱として、障害児者医療のニードへの対応を軸に、在宅および地域での生活・社会参加を支える地域療育のネットワークの核としての社会資源として位置づけられべきと考えています。

現在の肢体不自由児施設は医療法と児童福祉法との二つの法律に則ったhospital and home であり、児童福祉法第43条の3に「肢体不自由児施設は上肢、下肢または体幹の機能の障害のある児童を治療するとともに、独立自活に必要な知識技能を与えることを目的とする施設とする」とあります。

肢体不自由児施設はどのような障害児医療をおこなっているか、また一般医療機関ではなじまない場合例えば、虐待の加わったリハビリテ-ションや心のケアを必要とする児、母親の精神疾患等や父子家庭など家庭の崩壊による発達途上にある障害児は肢体不自由児施設での社会的入園にしか受け皿がないのが現状であるといえます。

ノーマライゼーションにのっとた在宅支援と障害医療や社会的入園などの入院機能とが車の両輪として、各県に最低ひとつは存在すべきであると考えています。地域に新たに小グループを今後作るとしてもその機能は低下し、十分な対応が出来なくなり後退するものと考えています。規模、専門家群のマンパワー、保育や教育、家族への支援などを現在の対応などからみて効率は今以上に悪いものにならざるを得ないと考えます。

肢体不自由児施設の歴史を振り返り、日進月歩の医学を取り入れながら、障害児の子育ての拠点として現在の課題と今後の展望について述べたい。、今後、我が国の社会が肢体不自由児施設にどのような必要性を求めてくるのか、それに答える努力が続けられるかどうかにかかっていると考えています。

1. 医療と療育とを柱とした障害児への総合的な施設であり、ニードに応じて他種施設の併設・センタ-化を行い、養護学校を併設している。

「療育においては時代の科学を総動員して」を合い言葉にし、「こころとからだを育てる」をモットーとしています。肢体不自由児施設は古くから我が国に伝わる障害児を宝とする宝子伝説、「この子らを世の光に」という理念、脳性麻痺アテト-ゼ型の恵比寿様や知的障害の淡島様や水頭症の福禄寿・福助など敬愛、貧しい奈良時代に高度な福祉制度の見られたことなどの伝統を踏まえたものと考えています。

施設内医療療育のみではなく、訪問検診・巡回相談・講習会や講演会などの地域技術支援などの施設外活動、ボラテイア育成、実習生や見学者の受け入れ、海外技援など多様な総合的な活動を展開しています。

2. 地域の障害児療育の要として半世紀を超える歴史をもっています。

肢体不自由児施設は我が国のリハビリテ-ションと小児整形外科の発祥の地です。大正時代より社会参加やノマライゼーションの理念を掲げ啓蒙をおこなってきています。また、リハビリテ-ションのことばを我が国に導入定着させたのも肢体不自由児施設の先達でした。ポリオ・ カリエス・サリドマイド・先天股脱などの時代のニードにつねに対応し、現在も障害の重度重複化や多様化に対して医療療育の向上をめざして、社会の要請に応じようと努めています。このように努力し続けてこれたのも、国策としての背景があったからこそと考えています。肢体不自由児施設のほかに受け皿はないと考えています。

3. 各県に一つの配置に近く、一施設の規模は小さく、実態は様々です。

各施設の実態は千差万別です。14年3月時点の全施設での在籍児は3045名で毎年百数十名づつ減少していますが、外来への移行や入所期間の短期化によるもので、入院も外来も利用者総数は以前よりも大きく増加しています。また、総病棟数は130病棟ほどであり、1病棟平均入所児数は約23人である。従って、2-8体制の3交代勤務のために医療機関として最低数の看護婦を確保する観点からも病棟再編は難しいものとなっています。

地域の障害児ハビリテ-ションの三次療育圏の中心であり、技術支援等を通したネットワークを形成しています。強度行動障害や重度な知的障害単独例は専門施設と連携していますが、中等度以下の肢体不自由児以外には二次療育圏の地域の社会資源として肢体不自由児施設で対応しつつあります。

障害児医療の割合の大きな施設と療育機能の割合の大きな施設とに分けることができると考えています。

4. 中枢神経障害の重度重複疾患が最大の対象疾患です。

医学・医療の進歩のなか、最大の難病である脳原性疾患を主に対象としていて、発達期のリハビリテ-ションは常に変化しており、いつも急性期の状況であり、機能を作り上げてゆくのでリをとったハビリテーションというのが適切です。

3045名の在籍児の状況は疾患では中枢神経疾患71%、二分脊椎4.2%、小児整形外科疾患11%、骨系統疾患2.6%、その他11%です。年齢では5歳以下15.4%、12歳以下44.7%、15歳以下19.4%、16歳以上20.5%であり、重症度では7割を占める脳原性疾患のADLは要介助率 食事70%、更衣81%、洗面80%、トイレ84%、入浴90%、歩行85%、言語66%であり、全体の知能指数は測定不能19.2%、、35以下21.3%、50以下9.0%、75以下14.0%、75以上18.2%となっています。また入所期間は3年以上が4割を超えていますが、平成13年度の年間入退園数は4000名で実行床数を超えています。3ヶ月ほどの期間に医療療育を終えて家庭へ帰る児童と重度な家庭の崩壊した社会的な入所を余儀なくされている重症児とに二分化していて、後者の退院できない児童を含めた平均入院期間は約9ヶ月となっています。在籍児の経年的な減少は少子化、軽症例の一般病院での受診、入院期間の短縮などによるものです。また、外来を含めた現在の総対象児は15万人程度と考えられます。

5. 多職種によるチームアプローチであり、障害児への医療療育への最大のマンパワーを有していると考えていますが、施設全体の多面的な役割もあるために人件費割合が大きく、以前から経営を圧迫しています。

重度障害児への濃厚医療、発達障害児など多様なニードへの対応は多くの専門家の人手を要し、民営施設を中心としてたいへんな努力を続けてきても人件費は総支出の75%以上を占めており、新たなニードに応えようと人をさらに配置すると赤字となり経営を一層圧迫してしまいます。

障害児のある家庭は両親が若く、経済的にも厳しい。その家族支援はできる限り少しでも大切な子どもが良くなるように自立・社会参加・自信・障害の受容などをめざすものと考えます。障害のある子を持っても、母親が安心して次の子どもを産め、安心して労働に参加できるよう社会連帯の要として支援を今後もおこなってゆかねばなりません。これは少子化対策にもなるものと考えています。

施設より地域・在宅へ促進させる努力も重度化・家庭の崩壊・適切な社会資源の不足などのために十分に結果を得ることができていません。より一層この面での推進に肢体不自由児施設の役割があり、そのためにもわれわれは先輩の理念を受け継いで、マンパワーを充実させ基盤を強化し特に重症障害児医療への要として肢体不自由児施設が今後も各県に少なくとも一つは存続してゆく必要があります。そうすれば保健・福祉との総合的な対応を半世紀以上にわたって担ってきた肢体不自由児施設は21世紀に向けての我が国障害児施策の一翼を担う貴重な財産になりうると自負しています.

施設間の機能分担と連携のネットワークを構築し、障害児ハビリテ-ションをおこない、NICUや障害児の緊急医療対応が悪化するなか、肢体不自由児施設のこの面での 基盤強化は崩壊の危機にある小児医療を底支えするものであると考えています。