2)具体的な障害児医療

1. 母子入園

児の発達を扱う際に、個々の児と同時にその環境として最も大切な母親の存在は重要です。子どもが、全人的にみて一人前のおとなになる過程のなかで、乳児期がいちばん重要な時期で、乳児期における母と子の人間関係は、こどもが人生で最初にもつものであるがゆえに、円熟した母子関係をもつことがきわめて重要とされ、タッチングやアタッチメントなどの概念でその重要性が述べられています。障害児の場合にはより緊密な母子関係が不可欠です。

発達障害児をもった母親の心理や家庭内の状態がいかなる状況に陥るかは多言を要さないと思います。核家族化が進み育児機能の低下が指摘され、家庭崩壊や虐待などが社会問題化している昨今において、発達障害児をもった母親および家族にたいする支援を医学的、社会学的、福祉的に実践する場の確立が焦眉の問題として問われています。これは普通、母親と児がともに2ヶ月程度(1~6ヶ月)入院し、多職種のチームが家庭を破壊しないで在宅を可能とするために綿密な内容にて対応しています。専門スタッフのチ-ムワ-クによる総合的な方針確立と母親指導を通して、生命の維持のための援助が中心となっている。それらの具体的な内容としては食事の方法(食事形態・摂食の方法・姿勢管理・誤嚥予防)、呼吸の管理(直接呼吸介助・気道確保の仕方・夜間呼吸停止への対応・肺炎予防)、痙攣重積時の対応、体温調節不良への対応・消化管障害(胃食道逆流)、さらには運動発達を促進し二次障害を予防するための日常的な配慮・家庭崩壊を防ぐためなどの家族への心理的側面でのサポ-ト等であり、これらの支援なくしては、元々 何十倍と大きい死亡率が一層大きなものとなってしまうのは目に見えています。重症度例では生きることをまず確保し、尊厳のある生活を保てるようにし、中等度以下ではたくましく生きるあるいはよりよく生きるようにを基本として配慮しています。

大学病院や基幹病院のNICUでの治療が済んだりあるいは症状が軽減したりして(全国のNICUでは退院できない児が1%いて、ベットが塞がっているといういわゆるchronic NICUといわれる状況のもと)、家庭でどのように育てて良いのかまったく見通しが立てられない場合に、病気を理解し家庭での対応の仕方などの母親指導や障害の受容に向けての母親の精神的サポート(マタニテイーブルーも伴いやすい)等を柱としています。重症度に応じて摂食の仕方(食事形態・姿勢管理・誤嚥予防・筋緊張の軽減等)、呼吸の管理(喀痰の吸引・酸素投与・エアーウエイの挿入・気管切開の管理等)、家庭訓練(毎日の家による運動訓練や補装具の使用による変形予防等)、けいれん重積や発熱脱水などの急変の家庭での初期対応、生活リズムの確立・体温調節、導尿方法などの医療的処置等を指導しています。重心施設が万床であるため、肢体不自由児施設がその分を引き受けていて、NICUから家庭への橋渡し・植物人間であった交通事故児の脳外科から家庭復帰への橋渡しなどを担い、また、家庭での虐待による重度な脳障害児が肢体不自由児施設に累積してきており、生命の維持・機能の維持・こころのケアなどのため多面的な対応が必要とされています。

2. 医学的リハビリテ-ション

児童は発達し続けるものであり、脳卒中のように失われた機能を回復させるのではなく、新たな機能を獲得させ発達を促す必要があり、成長期を通して長い年月の専門的な 治療が必要とされます。小児の脳障害の特徴としてそれが広範であっても、長期の治療訓練により障害を軽減することが可能であり、逆に適切な専門的な治療がなされない場合には、発達が遅れて経過とともに正常との差は拡大したり、次々と新たな障害が出現してきます。近年脳科学の進歩により、脳機能回復に関して、脳損傷後のニューロン軸索からの発芽によるニューロンネットワークの再構成や適切なネットワークに最も近い軸索が強化されるメカニズムなどが解明されており、発達期の脳障害の特殊性や、療育の意義は脳科学の面からも証明することが可能となり、専門的な介入の重要性が一層見直されています。一方、障害された未熟な脳が環境から絶えざる異常刺激を受け、異常刺激に過敏に反応して心身の二次的異常が形成されてゆくのに対して、施設全体としての専門性にのっとったチ-ムワ-ク機能によって成長期にわたって長期間に心身の発達保障・保育・学業を含めた総合的な対応がなされなければならず、その中核が医学的リハビリテ-ションです。

身体運動面だけをとらえても例えば健常児の歩行の完成は、前後左右のバランスや筋の使い方などを含めて10歳頃となっています。脳性麻痺で出現してくる股関節脱臼は重症なほど早期に出現しますが、8歳ころにピ-クがあり、激しい疼痛をともなって睡眠もとれなくなり治療に難渋することがしばしばあります。脊柱側弯は二次成長期に悪化するのは健常児の側弯と同じであるが高頻度に高度な変形が出現しやすく、小学校高学年あるい中学生で急速に悪化し、成長終了までは側弯の進行は無くなりません。

小児科病棟の閉鎖が相次ぐ中、1床1000万円をこえているこども専門病院でも引き受けてくれず肢体不自由児施設の医療機能が対応せざるをえず受け入れている。
疾患が多様化しかつ重度化しているため同時に高度に専門的な医療が必要で、種々の専門機関への短期の一時転院も多い。 家族を支えながら、障害児の生命を維持し機能を引き出すには絶えざる専門的な医療介入が必要であり、脳障害疾患こそ難病中の難病である。

理学療法・作業療法・言語聴覚療法・心理治療などを、外来通院訓練・通園訓練・短期入院集中訓練を症状および発達段階に応じて、1対1の個別訓練を基本にしています。集団訓練は交流・コミュニケーション・社会参加等の内容を中心にしているといえます。年少児や知的障害を伴う児である場合には訓練の動機づけがなく飽きてしまうことがネックとなり、工夫して興味を持たせるような内容にしたり、休憩を入たり遊びを交えて訓練を持続させたりする必要があり、訓練スタッフには種々の経験が必要とされます。

半数以上の施設がリハビリテ-ション総合承認施設であり残り半数は訓練施設・であるとともに、各県にほぼ一つであることから遠くからの通院が多く、頻回の通院は負担が大きく、本人の疲労などの負担とならない範囲で1日にできるだけ集中してたくさんの訓練を受けたいという状況です。(PT,OT,STの個別訓練は母親への家庭訓練指導等を考慮すると40分以上にすることが適切です)。

入院での訓練は短期集中訓練を中心としており、母子入院と共にPT・OT・STのうち必要な訓練を毎日40分以上づつ保証する必要があると考えています。とくに頭部外傷直後の運動麻痺を含めた種々の障害には一定期間の濃厚な集中訓練が必要となっています。

外来訓練では学校や通院などの家庭の事情を踏まえて、週1~2回の場合が多いですが、例外を考慮して最大週5回は保証する体制を維持したい。脳卒中では脳が限局性に強く障害され、回復の予測は比較的早期から可能ですが、障害児の脳障害は一部が強く障害されるのではないため、障害範囲は広範囲で種々の重複障害をもっていて、長期にわたり発達の過程で障害を軽減し機能を改善することが可能であり、脳卒中と同列に早期の回復を予測して、それ以後は慢性期とするような対処のしかたは発達途上の児には当てはまらないと考えています。

3. 整形外科的手術

小児整形外科の中でも対象数が限られ稀な疾患も多い。主な対象疾患は脳性麻痺、二分脊椎、種々の筋疾患、先天奇形、骨形成不全症、先天股脱、先天性内反足、外傷後遺症などです。殆どが機能再建手術でありいわゆるホットサージェリーではなく一般病院では経験が少なく、手術適応・術中の要点は経験がないと教科書のみではよい成績が得られにくい。しかも手術は単独で行うのではなく、手術前後の訓練・適切な装具の装着を長期にわたっての管理が基本であり、総合的な対応がないと手術での効果が失われてしまうことも多い。これらの点から一般病院は障害児の機能再建手術を敬遠しがちであり、家族からは失望され、肢体不自由児施設に紹介されたり、情報を得て集まってきています。

手術をうける障害児の多くは体力がなかったり、心肺機能の低下があったり、さまざまな内臓の奇形を伴っていたり、理解力がなくパニックに陥ったり、麻酔では障害児麻酔の経験深い麻酔医でないと対応できず、術後の管理も障害児の経験がないと難しいと考えています。

4. 小児科緊急医療

肺炎・胃食道逆流等による誤嚥・呼吸障害などのために肢体不自由児養護学校の生徒の4~5%以上が毎年亡くなっています。緊急濃厚医療をもとめて救急車などで来院されますが、救急医療でベットがふさがっていたりでそれ以上の数の緊急医療入院が出来ないこともたびたびあります。ネットワークを使って他病院へ緊急な依頼をする場合もしばしばで小児科医療の崩壊の危機のあおりを受けて、紹介転院などが大変困難なことが多くみられます。一般病院の小児科医師以上に肢体不自由児施設の小児科医は多忙であるといえる。いわゆる超重症児は施設間に偏りはありますが多数を肢体不自由児施設においても対応してきています。

また、入院期間は長期であっても様々な重複障害を持ち、呼吸器障害・消化器障害・痙攣重積・心臓機能障害などの急に悪化させることもあり、さらに泌尿器(筋緊張による尿閉など)・代謝障害・睡眠栄養障害など脳障Qに起因する急性期合併症が頻発しやすくなっています。

5. 障害児歯科

嚥下機能の障害・先天的な歯牙異常・抗けい剤の副作用等さまざまな理由により、悪条件下にある口内衛生の改善により心身の健康の基礎づくりが必要です。歯の病気が高度である上、知能障害を伴ったり、体力がないため治療に難渋することが多く、障害児歯科加算を認めていただいているが、児一人に要する一回ごとの治療時間が長く、収支面の悪化に伴ってスタッフ数が限られていることから外来予約が適切に行えていません。

6. 入院における療育について

保育士、指導員、臨床心理士、ソーシャルメデイカルワーカーなどの療育スタッフが専従となって、こころのケアや社会生活スキルの獲得にあたってきています。日常生活への介護度はたかく、食事介助における人手不足、学校への送り迎えなどに対してフレキシブルな勤務態勢で1日の中での必要度に応じていますが、病棟規模の面等から限界があり現場スタッフへの負担が大きなものとなっています。

7. 緊急一時保護

肢体不自由児施設を利用する緊急一時保護は医療的ケアーを必要とする児が殆どであり、一般のレスパイトケアでは対応できないと考えています。生命の安全を確保し、無事保護を終えるためにはきめ細かな専門性が必要となっています。

8. 外来

外来紹介率は40%以上のところが多く、紹介元は大学病院,基幹病院、行政機関などと種々です。多くは予約制をとっていますが、遠くから大変な思いをして外来を受診する重度で稀な疾患をもつ児にたいして、家族を支え専門医療を発揮し一般病院での対応に不満なものをカバーするためには、診療時間は長くならざるをえません。

しかし、高い専門性と長い診察時間を要する肢体不自由児施設外来医療に対する政策的な裏付けはなにもありません。全国で月に延べ11万人が外来を受診していますが、全体の収入に占める外来の収入比率は伸びず外来数が増加しても経営を圧迫しているといっても過言ではありません。外来の非採算性の悪さも入所より在宅地域への促進への壁となっている側面があります。肢体不自由児施設の外来診療に対する政策的な対応により、地域療育を発展させるために障害児外来指導加算などの形で見直しをお願いしたい(全国の公立の子ども病院がだしている赤字の大きなことは知られています)。

脳性麻痺の早期発見・早期治療を積極的に手がけて来たことから、その類縁疾患の身体障害、知的障害など発達途上で様々な原因によって発達に困難を来した児が、肢体不自由児施設の治療の対象になり、身体障害、知的障害、精神障害の3障害のうち自閉症などの小児の精神障害も多くの肢体不自由児施設では外来や通園療育において扱われています。これらの発達途上で障害をもつ児を総括的に発達障害児と呼称するとすれば、肢体不自由児施設が発達障害児全般に関わっているという現状である。

9. 施設の多面的な活動

これは障害児への処遇ではないものもありますが、巡回相談、訪問看護、看護師・保育士や訓練士・福祉関連の学生など多くの実習生の受け入れ、地域への技術指導(通所・養護学校などへの指導)、知識の伝達、講習会の開催、海外への技術支援や交流、ボランテイアの育成などを、地域社会からの要請を受けて、長い歴史を背景にもつ施設の役割として多面的な活動を行っています。これにも多くの人手がとられますが、地域を育て在宅を促進するためには不可欠ですが、これに要する費用が大きな負担となっています。